法制度が、あえて経営者とは別の法人格を会社に与えて経済取引を行わせることを想定しているにもかかわらず、会社が金融機関等から融資を受ける際には、ほとんどの場合、経営者個人の連帯保証を求められるのが現状ですね。したがって、会社が倒産するときには、経営者個人も破産に追い込まれるケースが多いと思われますが、民事再生手続の申立をして住宅ローンに関する特則を利用することができれば、あなたの住宅を守ることができる場合があります。
【起業におけるリスクマネジメント】 個人民事再生手続は、平成13年4月に施行されました。当時は様々なメディアで紹介されたりして、一般市民のみなさまも何となく聞いたことがあったのではないかと思います。
国や地方公共団体等が政策的に起業を促進し、口をそろえて創業支援策を打ち出している今だからこそ、起業におけるリスクマネジメントとして、会社の倒産時における経営者個人の財産の行方を確認しておくことは有意義です。施行から15年が経過した個人民事再生手続の内容について簡単に復習してみましょう。
【小規模個人再生と給与所得者等再生】
個人として、現実に民事再生手続を利用するには、「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあり、かつ、住宅ローンやそのほか担保権の付された債務等を除いた債務の総額(再生債権の総額)が5000万円を超えない」という要件を充足する必要があります。さらにその中でも、「給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがある者であって、かつ、その額の変動が小さいと見込まれるもの」という要件によって、「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」の区別がされます。
いずれにしても、再生計画の認可決定を得て、これを履行するために必要な収入の裏付けが必要です。したがって、会社が債務超過・支払い停止の状態に陥って、自己破産の申立をする一方で、あなた個人は民事再生の申立を検討するなら、すぐに就職するなりして継続的又は反復して収入を得る見込みを確保しなければなりません。
【住宅ローンに関する特則】
個人民事再生の申立をする最大のメリットは、何と言っても、住宅を手放さない選択肢があるという点でしょう。住宅ローンを完済していない場合でも、再生計画に住宅資金特別条項を定めることによって、原則として元の住宅ローンを約定どおり弁済することができ、結果的に住宅を守ることができるのです。
ただし、その住宅の所有名義・用途、ローンの種類・債務者等につき、要件が定められていますので注意が必要です。
【最低弁済額と清算価値保障】
再生計画の認可を受けるには、その再生計画によって弁済する総額が、①最低弁済額を下回らないこと、②清算価値保障原則に反しないこと、に注意して再生計画を立案しなければなりません。最低弁済額は、基準となる債権額に応じて、概ね100万円から500
万円の範囲で定められています。また、清算価値とは、破産をした場合に予想される配当額のことを指します。
例えば、会社が融資を受ける際にあなたが保証人となった分を含むあなたの債務の総額のうち、再生債権の総額が5000万円であり、あなたが破産をすると配当される財産の総額が400万円だとすると、あなたは、総額で5000万円の10分の1に相当する500万円を3年、場合によっては最長5年に亘って分割弁済する再生計画の認可を受け、その余の債務につき免除を受けた上で、住宅ローンを約定どおりに支払って住宅を守ることができる場合があるというわけです。
起業するにあたっては、大いに夢を語りたいですね。一方で、リスクをシミュレーションしておくことも起業家の責任と言えるかもしれません。
司法書士榛葉隆雄事務所
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司法書士 榛葉隆雄 氏