「株式を譲渡する際には、会社の承認を得なければならない」との定めが置かれている場合があります。まずは定款及び登記記録を確認し、承認を要する定めがあるか、承認を要する場合はその決定機関は何かを確認した上で、承認するか否かを株主に通知しましょう。
■登記記録をみたら「承認を要する」と書いてありました。会社を設立したときに司法書士のアドバイスを受けたはずですが、この定めを置く意味を今一度教えてください。
株式会社は、株式を発行することで資金調達し、その資金で事業活動を行っています。一方、出資者は会社の株主となり、「経済的な利益(配当や残余財産の分配など)を受ける権利」と、「会社の経営に参加する権利(株主総会の議決権)」を手に入れます。出資者から募った資金で展開する事業活動の方向性は、株主総会において出資者である株主が決定するので、株主が誰であるかは、会社にとって非常に重要な問題となります。では、株式が譲渡されると、会社にどのような影響があるのでしょうか。株式の譲渡により、前述の二つの権利が新たな株主に移転します。株式の譲渡は原則自由ですが、会社にとって都合の悪い人に譲渡されてしまうと、株主総会の決議が滞り、会社の経営に関する重要事項の決定ならびに経営に悪影響を及ぼすことになりかねません。
そこでこのような事態を回避するために、会社法では「株式を譲渡するには、会社の承認を得なければならない」との定めを置くことが認められています。この定めを置くことで、会社で株主を管理することができ、会社の経営を安定させることができるようになります。
承認機関は、原則として取締役会非設置会社では株主総会、取締役会設置会社では取締役会ですが、定款により会社に適した定めを置くことができます。承認を要する旨、承認機関は定款に記載すべき事項であり、かつ登記すべき事項になっていますので、まずは会社の定款と登記記録を確認してみましょう。
■承認の手続きはどんな流れで進めたらいいですか?
まず、株主から譲渡承認請求(譲渡する株式の数、譲受人の氏名を開示)をしてもらいます。請求内容を基に承認機関で承認するか否かを決定します。請求から二週間(定款でこれを下回る定めがある場合はその期間)以内に株主に結果を通知します。この期間内に通知しないと承認したものとみなされてしまう可能性があるのでご注意ください。また株主は、会社が承認しない場合は会社もしくは会社の指定する者に買取りを請求することができます。買取請求がある場合で譲渡を承認しないときは、会社は買い取る旨及び株式数、または買取人を決定しなくてはなりません。このときの売買価格は株主との協議になりますが、協議が成立しない場合は裁判所に対して売買価格の決定を申し立てることができ、一定期間内に申立てがない場合は、一株当たりの純資産額を基準に算定します。
手続きが複雑になりますので、ぜひ専門家にご相談ください。
■最後に・・・
「株式を譲渡するには、会社の承認を得なければならない」旨の定めを置くことの効果は、今回取り上げた経営の安定化だけではありません。会社法の原則に縛られずに、会社に適した機関設計や役員の任期等を定めることができるようになります。その効果は広範に亘るので、この定めがある場合もない場合も、今一度司法書士と一緒に検討してみませんか。