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当社の役員が借金を滞納しているらしく、裁判所から「役員報酬を差し押さえる」という内容の書類が届きましたが、彼の生活も守ってあげたいと思います。差押えができるのは手取額の4分の1と聞いていますので、残りは支払ってあげてもよいでしょうか。

2019/03/05 [03月05日号掲載]

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役員報酬については、所得税、住民税、社会保険料(以下「法定控除額」といいます。)を控除した額(以下「手取額」といいます。)の全額が差押えの対象となりますので全額を債権者に支払う必要があります。

 一方、この役員自身の生活再建が急務です。債務整理等に早期に着手するように促してください。

 

 

差押え禁止債権

 労働者に支払われる給与は、労働者やその家族の日常生活を維持するために必要不可欠であると考えられているため、差押えができる金額にも手取額の4分の1(*)という上限が定められています。なお、差押えの原因となる債権の性質が養育費等の扶養義務等の場合は、手取額の2分の1が上限とされています。

 しかし、ご質問のような役員の場合は、会社の指揮監督下で決められた仕事に従事する労働者と違い、自身の裁量により業務を行う立場にある者と考えられているため、労働者のような保護の対象にはなりません。また、従業員は兼職が禁止されているのが通常ですので、会社からの給与は唯一の収入源であると考えられますが、役員の場合には他の収入があることも想定されます。このような理由から役員報酬の差押えに上限は定められておりません。

 したがって貴社としては、役員報酬を差し押さえられた者には一切支払いをしてはならないこととなるわけです。

(*ただし、手取額が月額44万円を超える場合は、その残額から33万円を控除した部分の全額。例えば、手取額30万円の場合、差押えの上限額は7・5万円。手取額50万円の場合、差押えの上限額は17万円)

 

差押命令に従わない場合

 給与や役員報酬を差し押さえられた場合、裁判所から貴社に対し、「陳述書」という書面が送付されるのが一般的です。差押えを受けた従業員の給与や役員の報酬額について回答するための書面ですが、虚偽の回答をしたり回答をしない場合、差押えによって債権回収を図ることができたはずの債権者から損害賠償請求を受けることにもなりかねません。

 また、差押命令に従わずに給与や役員報酬を支払ってしまった場合、債権者から「差し押さえた金額の支払いをせよ」という裁判を起こされる可能性もあります。

 なお、貴社が差押えを受けた従業員や役員に対してお金を貸しており、月々の給与や役員報酬から天引きしているケース、社内積立や組合費などを天引きしているケースなども考えられますが、差押えを受けた場合に控除が認められるのは法定控除額に限られますので、法定控除額以外を天引きすることも許されません。

 

生活再建のために

 差押えを受けた役員はたちまち生計の維持に支障が生じる状況に陥ることでしょう。生計維持のためにやむを得ない事情がある場合などでは、差押命令の一部取消しを求める制度も用意されてはいますが、ハードルが高いのが現実です。

 速やかに司法書士への相談を促し、早期の債務整理に着手させるのが最も得策であると考えます。