事業の承継は法律・税務や各種の特例の適用、または当事者の意向などにより事例に応じて対処を検討する必要があります。社長が元気なうちに準備を始めれば選択肢が増えますので顧問の税理士や司法書士に相談してみることをお勧めします。
遺言書の作成を検討
後継者が決まっているのであれば、その方に株式と事業に必要な財産を相続させる内容の遺言書を残すことを検討します。遺言書があれば、亡くなった後相続人に自分の意思を伝えることができますし、仮に後継者以外の相続人から遺留分侵害額請求がされてもより多くの財産を後継者に引継がせることができます。
遺留分侵害額請求の問題
後継者の方に全ての財産を相続させるとの遺言を残した場合でも、他の相続人は自分にも金銭で財産を分けて欲しいと言う事ができます。これが遺留分侵害額請求権です。
事業に使用しない資産がたくさんある場合、後継者以外の相続人には、事業用資産以外から遺留分相当額を相続させるという遺言を残せば良いでしょう。しかし、財産の大部分が事業用資産である場合には、遺留分侵害額請求をされてしまうと後継者は事業用の財産を処分したり、借入をするなどして遺留分侵害額を支払わなければならず、事業運営に支障が出てしまいます。
経営承継円滑化法の適用
遺留分を考慮した遺言書を作成できない場合でも、経営承継円滑化法の除外合意の適用を受けることを検討することができます。
これは旧代表者から後継者へ株式と事業用資産を生前贈与し、それらについては遺留分の計算から除外するという、旧代表者の推定相続人(遺留分権利者)全員と後継者による合意です(旧代表者は含まれません)。この合意が効力を発生するには経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可が必要です。
この合意の効力が発生すれば、株式と事業用財産に対して遺留分侵害額請求がされることはありませんので、後継者は安心して事業の経営に専念することができます。
なお、同法では、株式や事業用資産についての相続税と贈与税の納税を猶予・免除する事業承継税制も定められています。この制度の適用を受けるためには、令和5年3月末までに特例承認計画を都道府県に提出する必要があります。期限が定められていますので、利用を希望する方は早めに専門家にご相談下さい。
同意が得られない場合
除外の合意は関係者全員の同意がないと進められません。同意が得られない場合はどう対処するべきでしょうか。
株式会社の場合には種類株式を利用する方法があります。議決権の行使ができない種類の株式を作り、後継者以外の相続人に遺留分相当額の株式を相続させることにより遺留分侵害額請求を防止する方法です。
また事業用財産を信託する方法もあります。先代経営者死亡後に遺留分相当の受益権を後継者以外の相続人に与えることにより遺留分の侵害を防ぎます。信託は法人ではない個人事業主でも利用することができたり、当事者の意向で自由な設計をすることができますが、事業承継税制の適用がない点はデメリットとなります。
早めの対策が重要
経営者の方が突然亡くなってしまったり認知症になってしまうと、事業の経営に必要な意思決定や財産の処分ができなくなったり、後継者が円滑に事業を引き継ぐことができなくなってしまいます。経営者が元気なうちにきちんと準備をしておくことをお勧めします。
司法書士は企業法務や相続手続に精通していますので適切なアドバイスが可能です。ぜひ一度ご相談ください。
櫻井健一司法書士事務所
島田市道悦一丁目12番14号
司法書士 櫻井健一 氏