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いわゆる一人会社で、建築業の許可申請のため増資を検討していますが、出資する資金がありません。何か方法はありますか。

2020/10/05 [10月05日号掲載]

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自己株式の取得と募集株式の発行という手続がありますが、自己株式の取得には財源規制がある他、会計上の処理についても注意が必要です。

 

自己株式の取得

 会社が自己株式を取得するにはいくつかの方法がありますが、今回は、株主(本件では代表取締役)と会社が合意の上、株主総会の決議を経ることで自己株式の取得が可能です。

 この場合、大まかに、合意→株主総会の決議→取得価格の決定→株主への通知又は公告→株主からの申込みという流れで行います。

 具体的にはまず、自己株式取得の大まかな内容について株主総会普通決議による承認を得た後上記決議にもとづいて株式を取得する際には、取締役が、取得する株式の数や、その対価等を決定し、株主に対し、「株式をこの対価で取得するので、希望する株主は期限までに申し込んでください」という通知をする必要があります。

 通知を受けた株主が、会社に対し譲渡しの申し込みを行うと、上記期限日において自己株式の取得が成立することになります。

 

財源規制

 自己株式の取得は、無償のもの以外は、株主に対する資本金の払戻しと同じであり、会社の資産が減少することで会社債権者を害する可能性があるため、取得の対価等について規制があります。

 具体的には、余剰金の配当と同様の財源規制があり、株式の取得と引換えに株主に対して交付する会社の株式以外の財産の帳簿価額が取得事由発生日における分配可能額を超えてはならないとされています。

 

税務上の問題点

 税務上、自己株式の取得は、株式の取得金額によっては、みなし配当課税が生じる可能性があります。また、これにより会社の帳簿上の資本金や利益積立金等が減少することになるため、中には、帳簿上は業績が悪化しているように見られてしまうこともあるかもしれません。

 自己株式取得については、株式の時価評価の問題もあるため、顧問の税理士の先生等とも相談しながら手続きを進める必要があるかと思います。

 

募集株式の発行

 いわゆる増資の手続きですが、新たに自己株式を発行し割り当てることも、自己株式の取得により取得した株式を割り当てることも可能です。

 一般的な増資の流れとしては、株主総会決議による募集事項の決定→募集事項の通知→引受けの申込及び出資金払込み→登記申請となりますが、会社の形態や割当ての方法等により手続きが異なります。また、増資後2週間以内に法務局へ登記申請が必要です。

 なお、株式の時価評価によっては、発行する株式1株当たりの価額を「現在の資本金の額÷現在の発行済株式数」で計算した金額としていても、いわゆる有利発行となる可能性がありますのでご注意ください。

 

その他の方法

 増資をする場合、募集株式の発行以外にも、準備金や剰余金の資本組入れの方法や、その他、代表取締役が会社に対して貸付をしている場合には、その分を現物出資する方法(いわゆるDES)等も考えられます。

 準備金や剰余金の資本組み入れは、株主総会の決議があれば可能で、自己株式取得や募集株式の発行のような複雑な手続きは必要ありません。

 

まとめ

 増資の方法は、自己株式取得・募集株式の発行以外にも、上記準備金等の資本組み入れなど、場合によってはいくつかの方法が考えられますので、手続きの際には一度司法書士事務所にご相談いただければと思います。

 

司法書士小林綾見事務所

静岡市駿河区小鹿二丁目23番23号

司法書士 小林綾見