今年4月に、静岡理工科大学(袋井市豊沢2200─2)が新設した『土木工学科』。県内の大学では唯一の専門学科として、地元建設業界から大きな期待と注目を集めている。現在、年内の完成を目指して、“融合”をテーマとした新たな校舎・土木工学科棟(愛称・あーすつりー)の建設を進めている。
今年4月から同学部の学科長に就任した松本健作氏は土木工学の特殊性について、守備範囲とする幅が広域なことをあげる。「他の分野ですと研究室で何かを開発し、それを社会実装のステージに持ち上げていくという過程を踏みますが、土木工学は最初から社会実装ありきなんです。とどのつまり現場の工学であり、私どもは街づくりをキーワードにしていますので、街が研究室といっても過言ではない。ラボに閉じこもっているのではなく、最初から街の中に入って物事をはじめていくようなスタンスです」と話し、「その街の中で実装していく上で、さらにそれを良くしていくためには必然的にといっても良いかと思いますが、その街にいるさまざまな方と打合せをしたり、合意形成するといった対話が必要になってきます。ですから私どもの学科では学生を現場に連れて行き、現場の実務者と対話することがとても多い。そこで学生自身が地域の課題を我が事として捉え、自走して行動するための学びの場を提供していきたい」。
土木業界全体が重層的な構造を持っているため、一概に現場といってもそのすそ野は多岐に亘ると松本氏は言う。まずは行政発注側がいて、そこからプランを描いていく設計者・コンサルタントがいて、その設計図をもとにつくり上げていく建設業者がいる。そのため一概に現場といっても工事現場だけを指すのでなく、設計の部分であるとか、市民の意見を聞きながら合意形成し、どういう街をつくりあげていくのか?というグランドデザインを描く場も現場となる。「土木業界の欠けてはならないキーワードが現場工学。例えば川は水害が怖いよという存在ではなくて、日頃行くと気持ちのいい場所としての一面も持っている。川に行きたいという気持ちが日頃の川の状況を良く知り、ちょっとした異変に気づき、どこが危ないかに気づくことがひいては防災につながる。それを分断しても学生には伝わらないため、それをまとめて現場で伝えていくことが重要。そのようにして学生の地力を涵養することのできる教育の場でありたい。また、当学科の学生は地元の皆さまのご協力を賜りながら育成していきたいと思っています。同様に地元建設業において現在実務に従事されている方々にとりましても、例えば、若手職員の技術力向上や最新情報の提供といったかたちで当学科を活用していただき、協働して地元建設業を盛り上げていければと思っています」。