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私は、ビルのテナントに入り、飲食店を経営していますが、新型コロナウイルス感染症の影響により売上が減少し、直ぐには賃料を払えません。支払い期限を過ぎた場合、すぐに退去しなければなりませんか。また、営業を休止した場合、賃料は減額されませんか。

2022/09/05 [09月05日号掲載]

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建物の賃貸借契約においては、賃料の未払いが生じても、事情により借主と貸主の信頼関係が破壊されていない場合には、直ちに退去しなければならないわけではありません。営業を休止した場合の賃料については契約内容や当事者の合意によりますが、原則、賃料の全額支払い義務は免れません。

なお、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた賃貸借契約に関しては、法務省HP「賃貸借契約に関する民事上のルールを説明したQ&A」も参考となります。

法務省 https://www.moj.go.jp/content/001320302.pdf

 

 

 民法上、契約当事者の一方が、その債務を履行しない場合、相手方が相当の期限を定め、その債務の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、その契約の解除をすることができます(民法第541条)。これを賃貸借契約に当てはめると、飲食店経営者は、テナント主から契約に基づき期限を定めて賃料の支払いを催告されても支払いができない以上、賃貸借契約を解除され、その結果として、立ち退きを求められても、契約上やむをえません。賃貸借契約書に契約解除についてどのように定めているかの確認をまず行うことが必要です。

 賃貸借契約は、その性質上、継続的な契約関係が当事者間に形成されているものなので、当事者一方の一時的な債務不履行(本件で言えば借主の賃料の不払い)があったからといって形式的に解除していくことは、その事情の内容によっては当事者一方にとって酷な場合もあり得ます。

 そこで、借主に賃料不払いがあっても、借主と貸主の間の信頼関係が破壊されていないと認められる事情がある場合には、貸主は賃貸借契約を解除することができないとされています。これを「信頼関係破壊の法理」といいます。

 この信頼関係が破壊されているか否かは、賃料の不払いの金額や期間、不払いに至った経緯、不払い後の借主貸主間の交渉の状況等、個別具体的な事情を総合的に考慮して判断されます。新型コロナウイルス感染症に関する各種支援制度や融資制度の活用の有無も個別具体的な事情の一つになると考えられます。このように新型コロナウイルス感染症の影響により、売上が減少し一時的に賃料不払いとなり、借主のこれらに対する対応等の事情によっては、信頼関係が破壊されていないという判断がされる可能性があります。

 このような事態になった場合には、飲食店経営者としては、当月の賃料が支払えないと分かった時点で、速やかにテナント主に連絡して、諸事情を説明の上、支払いの猶予および今後の見通しについて協議を求めてはいかがでしょうか。なお、支払猶予を求めるとしても、賃料が免除されるわけではありませんので、未払い賃料の支払いについて現実的な提案が必要となります。

 次に、新型コロナウイルス感染症の影響により、営業休止になった場合の賃料については、賃貸借契約書に定めや予めの合意があれば、それに従うことになります。これらの合意がない場合には、原則、借主に全額支払い義務があるので、改めて借主貸主間で賃料減額の協議を求めていく必要があります。

 なお、借地借家法には、賃料について「土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減」「土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下」「その他の経済事情の変動」「又は近傍同種の建物の借賃との比較」により不相当となったときは、当事者は、賃料の増減を請求することができる旨の規定があります。新型コロナウイルス感染症の影響による近隣の賃貸市場の変化は経済事情の変動に該当する可能性もあります。

 

あおぞら司法書士事務所

浜松市浜北区貴布祢265番地の8 イトリエ内

司法書士 小倉健彦 氏