静岡の企業情報

ビジネス法務

最近、「敷金ゼロ物件」が増えていると聞きます。私は賃貸アパートを経営しており、借主には入居時に敷金を入れてもらってきましたが、今後は敷金を預からない方がよいのでしょうか。すでに敷金を預かっている契約について、退去時の注意点はありますか。

2023/10/05 [10月05日号掲載]

Pocket

確かに、原状回復ガイドライン改定と民法改正以降、入居時に敷金を預からない賃貸借契約が増えています。しかし、敷金は、退去時の未払賃料やハウスクリーニング費等の担保として有用です。ただし、トラブル未然防止のためには、入居時と退去時それぞれに注意点があります。

 

 原状回復ガイドラインとは

 原状回復や敷金返還のトラブルの防止と解決のために国交省が定めたガイドラインが、2020年4月の民法改正によって明文化されました。これによって、①経年劣化・通常損耗は貸主負担、②故意・過失、善管注意義務違反による損耗・毀損は借主負担と、原状回復の負担が明確になりました。借主が通常の使い方をしていても発生すると考えられる経年劣化・通常損耗(クロスの変色、家具の設置による床のへこみ等)の修復費や、退去時のハウスクリーニング費は、借主に負担させることができないのが原則です。

 

 入居時の注意点

 ガイドライン・改正民法においても、経年劣化・通常損耗による原状回復費の一部を借主に負担させる特約は有効です。この特約に基づいて、例えば、退去時のハウスクリーニング費を借主に請求し、返還すべき敷金から差し引くことは可能です。

 そこでポイントとなるのが、入居時または更新時に結んだ特約の有効性です。従来の賃貸借契約書にあるような、「借主は、退去時のハウスクリーニングを負担する」だけでは不十分です。判例の基準によると、①負担すべき範囲の明確性、②金額の予測性が有効要件とされています。「費用は3万円とする」、または「1㎡あたり1000円のハウスクリーニング費を負担する」といった記載にすべきでしょう。

 また、③通常の原状回復義務以上の負担を負うことについての借主の認識が要件です。契約締結時に、本来借主が負担しなくてよい義務を負担することになるとの十分な説明がなされ、それについて借主が同意した旨を契約書の内容とすることが考えられます。

 

 退去時の注意点

 有効な特約がないならば、家賃の滞納がない限り、貸主は敷金全額を借主に返還するのが原則です。ただし、借主の乱暴な使用や約定に反する用法による損傷は、故意・過失、善管注意義務違反によるものとして借主が負担すべきものであり、この修復費を敷金から差し引くことは可能です。

 そこでポイントとなるのは、退去時に貸主・借主双方が立ち合いの上、十分に確認し合うことです。損傷等の箇所や程度、その原状回復の内容について、双方の認識の差をできるだけ少なくする必要があります。また、ガイドライン・改正民法のもとでは請求できない経年劣化・通常損耗の原状回復や、有効な特約がないのにハウスクリーニングの負担を求めたりすると、誤解やトラブルの原因となりかねません。

 立ち会いの中で、「入居時に設置されていたものが無い」、「残置物がある」、「建具・柱等に損傷がある」といった事実を指摘し、それぞれについて修復費・処分費等の原状回復費を適正な価格で請求すれば、トラブルを回避し、迅速に退去・明渡しを完了させることができます。そのためには、入居・引渡し前に物件の写真を撮っておくほか、チェックリストや平面図を作成するなどの準備をすることも重要でしょう。

 

 司法書士にご相談ください

 ガイドライン・改正民法に対応していない従来の賃貸借契約書を使い続けていませんか?借主側は厚く保護されている一方で、貸主側は事前に準備するしか手立てがありません。ひとたびトラブルになると、貸主にとって大きな負担が生じてしまいます。

 司法書士は、登記、供託、訴訟その他の法律事務の専門家として、契約書の作成や精査を支援することができます。是非お近くの司法書士までご相談ください。

 

片岡司法書士事務所

焼津市小川2868番地

司法書士 片岡信介 氏

 

静岡ビジネスレポートの定期購読はこちら