現在は相続人全員での話し合い(遺産分割協議)ができないままの状態ですので、相続人ABCは持分各3分の1の割合で実家を共有していることになります。たとえAが所在不明であっても、Aの共有持分を勝手に売却することはできません。しかし、所在等不明共有者の持分の譲渡の手続の制度を利用して売却できる可能性があります。
令和5年4月1日より、新しく「所在等不明共有者持分譲渡制度」が利用できるようになりました。
所在等不明共有者持分
譲渡制度とは
所在等不明共有者持分譲渡制度とは、裁判所の決定によって、申立をした共有者に、所在等不明共有者の不動産の持分を譲渡する権限を付与する制度です。
譲渡権限は、所在等不明共有者以外の共有者全員が持分の全部を譲渡することを条件として、不動産全体を特定の第三者に譲渡するケースでのみ行使が可能です。(一部の共有者が持分の譲渡を拒む場合には、条件が成就せず、譲渡をすることができません。)
所在等不明共有者の持分を、申立をした共有者がいったん取得してから売却するのではなく、共有物全体を直接譲渡の相手方に移転することができます。
所在等不明共有者は、譲渡権限を行使した共有者に対する不動産の時価相当額のうち持分に応じた額の支払請求権を取得します。(実際には供託金から支払を受けることになります。実際の時価に応じた額が供託金よりも高額である場合には、別途訴訟を提起するなどして請求が可能です。)
遺産共有のケースでは、相続開始から10年を経過しなければ、利用することはできません。
実際に不動産を売却する場合には、裁判を得た上で売買契約等の譲渡行為が必要になります。譲渡行為は裁判の効力発生時(即時抗告期間の経過などにより裁判が確定した時)から原則2ヶ月以内(裁判所が伸長することは可能です)にしなければなりません。
質問のように、不動産の共有者ABCのうちAが所在等不明で遺産共有の状態の場合に、Bの申立により不動産全体を第三者に売却する場合の手続の流れを見ていきます。
相続開始から15年を経過しているため、本件ではこの制度を利用することができます。
①Bによる申立・証拠提出
・申立は不動産の所在地の地方裁判所にします。
・戸籍謄本や住民票等の調査をしてもAの所在が不明であることを証明します。
②3ヶ月以上の異議届出期間・公告の実施
③時価相当額を持分に応じて按分した額の供託
・時価の算定にあたっては、第三者に売却する際に見込まれる売却額等を考慮します。
・A持分相当の3分の1の額の供託をします。
④A持分の譲渡権限をBに付与する裁判
⑤B及びCから第三者へ土地全体を売却
・原則④から2ヶ月以内に売却手続をしなければなりません。
誰にいくらで譲渡するかは、所在等不明共有者以外の共有者(B・C)の判断によります。
この制度により、共有者の中に所在不明者がいる場合でも土地・建物の利活用の促進につながることが期待されています。
司法書士法人芝事務所
静岡市葵区追手町8番1号 日土地静岡ビル5F
司法書士 永野昌秀 氏