差押命令で決められた金額は給料から控除し、最寄りの法務局に供託します。
司法書士は裁判手続きや供託手続きの専門家でもありますので、ご不明な点は司法書士にご相談ください。
1 よくあるご相談のひとつ
最近は、離婚に伴い未成年の子のための養育費を定めたり、夫婦間の取り決めとして慰謝料や財産分与といった金銭の支払条項を定めた「公正証書」と呼ばれる公文書を作成しておくケースが増えています。
このため、ご質問のような養育費や慰謝料の支払いが滞り、給料が差し押さえられるケースは今後も増えていくものと考えられます。会社を経営する皆さんには、ぜひとも正しい対応をご理解いただきたいと思います。
2 「差押え」とは?
そもそも「差押え」とはどういう手続きなのでしょう?
当事者間で交わしたお金の支払いに関する約束事が守られないような場合、支払いをしない相手に何らかの財産があることが判明しているとしたら、「その財産から強制的に支払ってもらいたい」と考えるのは通常のことでしょう。
この「強制的に支払ってもらう」ことを実現するための裁判手続きが「差押え」なのです。
3 申立てには準備が必要
ところで、約束が守られないからといって直ちに裁判所に差押えの申立てができるわけではありません。
差押えの申立てを希望する者は、相手に対する請求権が正当に存在するという事実を、「公文書」により明らかにしなければなりません。
つまり、単に契約書や覚書などを取り交わしただけでは足りず、冒頭の「公正証書」という書面を作成しておくか、あるいは訴訟や調停などの裁判手続きを経る必要があるのです。
4 財産を特定する必要も!
また、差押えの申立てを希望する者は、差し押さえるべき財産を特定しなければなりません。
元配偶者という間柄ですと、銀行口座のある支店をご存知の場合も多いでしょうが、銀行預金の場合、差押え時点での口座残高だけが差押えの対象となるため、相手方に預金を引き出されてしまえば不奏功となってしまいます。また、そもそも支払いを滞るくらいですから、口座にお金がないケースも少なくないでしょう。
そこで、勤務先の給料に注目するわけです。給料差押えが奏功すれば、勤務先は差し押さえられた金額を従業員への給料から控除しなければならなくなりますので、確実な回収が見込まれるわけです。
5 会社側の正しい対応
従業員が給料の差押えを受けた場合、会社側では差押命令にしたがい、一定額を給料として支払う金額から控除しなければなりません。
仮に、差押命令に反して給料全額を従業員に支払った場合、差押えを申し立てた者(差押債権者)からの請求を拒むことはできません。このため、本来控除しなければならない額について二重払いを強いられる結果となりますので、十分にご注意ください。
控除分の取扱いについても注意が必要です。差押債権者に直接支払ってよい場合と、そうでない場合があるからです。ご質問のように養育費と慰謝料の双方の支払いを求める差押えや、同時に複数の給料差押えを受けたような場合、差押債権者への支払いはできません。このような場合、最寄りの法務局に対し、控除分に相当する金額を「供託」する必要があります。
なお、差押えを受けたことだけを理由に従業員を解雇することは、労働基準法に違反する不当解雇となる点にもご注意ください。