Q
A管理状況によっては、時効取得による名義変更が検討できそうです。
登記記録上の所有者と連絡がつかない場合や、既に亡くなっていて相続人が誰なのか分からないようなケースでも、裁判手続きを利用して貴社に土地の名義を変更することが可能です。
1 高度成長の負の遺産
目まぐるしい勢いで不動産開発が進められた高度成長期には、本来であれば農業委員会の許可を得なければ売買契約の効力が生じない農地であっても、将来の規制緩和を当て込んでまとめ買いし、取り急ぎ「仮登記」という方法で権利保全を図る方法が散見されたようです。住宅用地として売却できた土地も多数あったことでしょうが、中には規制が解除されず、現在まで仮登記のままの状態が続いているケースも少なくありません。
団塊世代が引退を迎えようとする昨今、事業承継前にこの種の「負の遺産」を整理しておきたいというご相談をしばしばお受けしています。
2 20年間の占有で時効取得
このようなご相談をお受けした場合、私たちは「時効取得」の成立を検討するのが通常です。
農地を購入したが、農地法の許可が得られないまま管理を継続していた場合、その状態が20年間継続していれば「時効」によって農地の所有権を取得できることが、民法という法律で定められているのです。もっとも、時効取得が成立するためには、次に掲げるいくつかの要件を具備する必要がありますので、ご注意ください。
なお、以下の「占有」という言葉は、「管理」と置き換えて読んでいただくと理解しやすいでしょう。
① 平穏な占有
売買契約締結の日から二〇年が経過する日まで、「平穏な占有」が継続している必要があります。「平穏な」とは、「法律上許されない強暴な行為がないこと」と説明されます。他の占有者を暴力によって排除したようなケースでは、取得時効は成立しません。
② 公然と占有
売買契約締結の日から二〇年が経過する日まで、時効完成前の所有者などの利害関係人に対し、占有の事実をことさら隠蔽しない状態が継続していなければなりません。
③ 所有の意思
平たく言えば「自分の物」として占有することです。ご質問のように売買契約に基づき占有を開始した場合、所有の意思が認められます。しかし、借地の場合は「自分の物」という認識はないはずですので所有の意思が認められず、何年間占有を継続しても取得時効は成立しません。
④ 排他的な占有
一定範囲の土地について、柵や擁壁で囲む、作物の栽培や植樹をする、定期的に除草や伐木をするなどの方法により、客観的に明確な程度に排他的な支配状態が継続していることが必要です。したがって、荒れ放題のまま放置し、隣地との地境も判別できないような場合には「排他的な占有」が認められないおそれがあります。
⑤ 占有の継続
二〇年が経過する前に任意に占有を中止したり、他人に占有を奪われたりした場合、占有を再開した時から新たに二〇年が経過しない限り取得時効は成立しません。
3 裁判手続きによる解決を!
ご質問のような事案では、登記記録上の所有者が既に亡くなられており、相続人も分からないケースも少なくありませんが、このような場合でも、裁判手続きを利用することにより多くのケースでは貴社名義に登記名義を変更することが可能です。
当時の売買契約書のほか、売買代金や管理のために要した各種経費に関する領収書等をご用意の上、お近くの司法書士事務所をお訪ねください。
司法書士法人浜松総合事務所
浜松市東区半田山五丁目39番24号
司法書士 中里 功 氏