まずは隣家(木の所有者)に切ってもらうことが原則で、承諾なしに勝手に越境した木の枝を切ることはできません。ただし、状況によっては必要最低限度の伐採が認められる可能性もあります。また民法改正により、一定の条件の下、「相談者」が木の枝を切ることを認める規定が新設されました。
本件に関わる民法の規定については、今年の4月に一部見直しが図られました。ただし、新しい規定が適用される日(施行日)が決まっておりませんので、まずは現時点で適用される従来の規定に従ってお話しします。
伐採するにはどうすればよい?
❶伐採してもらうようお願いする
相談者は、民法上の権利として越境した木の枝をその家人(所有者)に伐採してもらうように請求できます。越境していても、その木は他人の所有物ですから、勝手に切ってはいけません。あくまで所有者に伐採してもらうことが原則です。どうしても切ってもらえない場合、裁判所の調停や訴え提起なども視野に入れて検討する必要があります。
❷所有者から伐採の承諾をもらう
木の所有者から承諾をもらった場合は、相談者が切っても問題はありません。また、造園業者に依頼するなどその伐採に費用が発生した場合は、その費用を所有者に請求することも可能です。ただし、後々「言った、言わない」とトラブルになりかねませんから、伐採前に伐採範囲や費用請求等について書面を交わしておくことをお勧めします。
❸緊急の事由による伐採
越境した木によって、建物が傷ついたり玄関を塞いでしまったり、不具合が生じやむを得ない場合には、その不具合を解消する範囲で伐採が可能です。今回のケースでは、越境した木の枝が換気扇を覆っているという事ですので、程度にもよりますが、調理による熱や油分、蒸気を室外に逃がすとともに新鮮な空気を室内に取り込むという、換気扇の機能を阻害している可能性があります。緊急に対応しないと被害や損害が発生するような場合は最低限の伐採は認められる余地があります。いずれにしても現場の状況によりますので、司法書士によく相談してから判断されることをお勧めします。
❹そもそも隣家が空き家で誰も住ん でいない場合は?
所有者の行方が分からない空き家が増えており、防犯、環境等に悪影響を及ぼすことがあります。空家等対策の推進に関する特別措置法によって、行政が所有者に対し、適正な管理を行うよう助言をすることができますので、まずは行政にご相談をすることが考えられます。
また、所有者の行方が全くわからない場合は、家庭裁判所に「不在者財産管理人」(不在所有者の代わりにその財産の管理を行う者)選任の申立てをして、その財産管理人に対して必要な措置(伐採)を請求する方法が考えられます。普段なじみの少ない手続きだと思いますので、お近くの司法書士にお気軽にご相談ください。
民法改正によってどう変わる?
右で述べたとおり、現状では越境した枝を相談者が勝手に伐採できないのが原則です。しかし、今春の民法改正で、次の①〜③のいずれかに該当するときは、「相談者」が自ら切除できるとする規定が新設されました。
①竹木の所有者に枝を切るように催告したが、所有者が相当の期間内に切除しないとき
②竹木の所有者を知ることができない、または所在を知ることができないとき
③急迫の事情があるとき
ご相談のケースでは①(場合によっては③)が該当すると考えられます。
この新しい規定は、令和3年4月28日から2年以内に施行されることになっています。執筆時点では未定ですが、施行されれば「相談者」が自ら伐採することも認められやすくなります。あわせて、越境した枝を伐採するために必要な場合は、「隣地の使用」(立ち入り)も明確に認められることになりました。
相隣関係では、その他にも細かな規定が改正されています。相隣関係でお悩みの際は、先ずはお近くの司法書士にご相談ください。
すはら司法書士事務所
浜松市東区大蒲町123番地の24
司法書士 数原友広 氏