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男性従業員から、「自認する性別が女性であるので、女性用のトイレを使用したい」との申出を受けました。当社は、自社ビルであり、トイレの管理権を有していますが、この申出に対し、どのように対応すべきでしょうか。

2022/02/05 [02月05日号掲載]

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 性的マイノリティに関する

    法律などについて

 現在、日本では、「性同一性障害の性別の取扱いの特例に関する法律」(以下「特例法」といいます。)のほかに、LGBTなどの性的マイノリティを想定している法律は存在しません。但し、同じような事案を扱った裁判例として東京地裁令和元年12月12日及びその控訴審東京高裁令和3年5月27日の判決があります。同裁判例を基に本件を考えてみたいと思います。

 

 裁判例の事案

 事案は、経産省が、身体的性別及び戸籍上の性別は男性であるが、自認している性別は女性である同省職員(但し、性別適合手術、特例法の審判いずれも受けていません。)に対し、執務室から2階以上離れた階の女性用トイレの使用しか認めなかったことが違法であるとして、同職員が国家賠償法に基づき損害賠償請求訴訟を提起したものです。

 

 裁判所の判断

 まず、地裁、高裁とも、「個人がその真に自認する性別に則した社会生活を送ることができることは、重要な法的利益」であるとしました。そのうえで、地裁は「個人が社会生活を送る上で、男女別のトイレを設置し、管理する者から、その真に自認する性別に対応するトイレを使用することを制限されることは、当該個人が有する上記の重要な法的利益の制約に当たる」として、違法と判断しました。一方、高裁は、「経産省としては、他の職員が有する性的羞恥心や性的不安などの性的利益も併せて考慮して、全職員にとっての適切な職場環境を構築する責任を負っている」などとして、違法ということはできないと判断しました。なお本件は上告審で係属中です(令和3年12月末時点)。

 

 裁判例からみる対応にあたり

    考慮すべきポイントなど

 地裁、高裁とも、「個人がその真に自認する性別に即した社会生活を送ること」を重要な法的利益として認めています。トランスジェンダーの方が自認する性別で生きること、他者から自認する性別で取り扱ってもらうことは、法律上保護を受ける権利です。

 そこでまずは、本人の意思を傾聴し、具体的な状況を勘案し、できるかぎり本人の人格的利益に配慮した措置をとることが重要です。すぐには自認する性別にあったトイレの利用が認められない場合には、別の代替的対応、たとえばいくつかあるトイレのうちの一つを「誰でもトイレ」として改修することも考えられます。

 なお、本人から他の従業員などへのカミングアウトを条件として、本人の申出を受けるという対応には問題があります。カミングアウトをするかどうかは、本人の自由であり、それを強制させることは別の人格権の侵害にあたります。

 今回の申出を契機に、個人を特定しない形でLGBT研修を実施するなどし、従業員の性的マイノリティに対する理解を促しながら、本人の希望に沿った対策を本人と一緒に考えることが肝要です。

 

司法書士渡邉直人事務所

沼津市御幸町20-16 安全ビル2階

司法書士 渡邉直人 氏